京都の建築家が教える家づくりのツボPoint in the order housing @Kyoto

column128 家づくりの転換期〜ローン負担が重すぎる?〜 2025.11.26

フラット35利用者調査・住宅ローン利用者実態調査から
住宅ローンの現在地

住宅取得に際して、多くの人が利用するのが住宅ローンです。
実質賃金が上がらない中(column127)、家づくりを実現した世帯はどのように住宅ローンを利用しているでしょうか。
グラフ1はフラット35利用者の、*総返済負担率の推移です。
総返済負担率は住宅建築からマンション購入まで、すべての住宅種別で上昇中です。
もともと総返済率が高い土地付き注文住宅は、2015(H27)年からの9年間で4%上昇して2024(R06)は27.3%に達しました。
20%以下だった中古物件も、2024年には20%を超えました。
「住宅ローンの返済額は世帯年収2割以下」と言われたのは、もう昔のようです。

実際、一ヶ月あたりの住宅ローン返済金額はどのくらいでしょうか。
フラット35利用者の一ヶ月あたりの予定返済額は、分譲マンションと土地付き注文住宅で16万円を超えました(グラフ2)。
2015年にはどちらも12万円超だったので、30%程度アップしました。
返済負担率から推察すると世帯の月間可処分所得は50万円以上となり、世帯合算やペアローンが視野に入る金額です。
建売と注文住宅の返済額は10万円代から12万円代に、中古物件も8万円前後から9万円代に上昇しました。
中古物件の9万円代は賃貸の家賃に近く、高騰する住宅取得費を見ると、中古物件の比重はまだ高まりそうです。

コロナ禍の2020年半ばから、急上昇する長期金利と歩調を合わせて、フラット35貸出金利も上昇しました。
その結果住宅ローン利用者の間では、月々の返済にボーナス時の加算を加えたボーナス併用償還希望率が、2021年以降急減しました(グラフ3)。
2021年には22%を超えましたが一転、2024年には10%代まで減少しました。
金利上昇による月々の返済増額が、ボーナス併用償還希望の減少に影響したと考えられます。

返済期間の長期化、世帯収入の総力化

フラット35を提供する住宅支援機構が、フラット35に限らず広く住宅ローン利用者を対象に、春と秋、年二回実施するのが「住宅ローン利用者実態調査」です。
直近半年間の住宅ローン利用者にインターネットでアンケートした調査です。
その調査結果で注目したのは、返済期間について。
年二回の調査ですが回を追うごとに、返済期間35年以上の長期ローン利用者が増加しています(グラフ4)。
2021年には長期ローン利用者は10%に満たない少数派でしたが、2024年10月には35年以上と40年以上を合わせた長期ローン利用者の割合が、25%を超えました。
住宅市場のメインストリームである一次取得世代は40代なので、40歳で35年ローンだと完済は75歳、49歳なら84歳になります。
「退職金で一括返済が前提」と思われますが、40年超の超長期ローンも増加中。

また、収入合算やペアローンの利用者の割合は4割に迫ります(グラフ5)。
収入合算は世帯主と配偶者等の収入を合算して住宅ローンを締結する方法で、ペアローンは一つの物件で複数のローン契約(世帯主と配偶者等)を設定する方法です。
いずれも世帯主の単独ローンより予算規模を拡大できるので、借入額を希望金額に近づけることができます。

この実態調査からいま住宅ローンの借り入れは、住宅取得する世帯の生涯をかけた家族総力戦に見えます。
金利が上昇すると、返済額が大幅に増額することはなくても返済期間が伸びたり、追加担保が必要になるなど、負担感が高まる事態も予想されます。
誰もが、生涯を賭けなくてもふさわしい家づくりを実現できる、そんな希望のある経済環境が望まれます。

ミックスローンも増加中

ところで、政策金利引き上げが現実的になってきました。
住宅ローンは固定型が長期金利に、変動型が短期金利に連動するため、住宅ローン利用者も政策金利の動向は無関心でいられません。
そんな先行き不透明な状況から、固定金利と変動金利を組み合わせてローン設定するミックスローン利用世帯も見られます。
住宅ローンを検討する方には、検討の余地がありそうです。

グラフ1.2.3:住宅支援機構「フラット35利用者調査」から作成
グラフ4.5.6:住宅支援機構「住宅ローン利用者実態調査」から作成
*総返済負担率:一ヶ月あたりの返済額を世帯収入で割った数字

このコラムは、注文住宅を計画する方の参考になることを目的に、アーキシップス京都の経験に基づいて書き下ろします。
トピックス、技術、経験の内容は、主観に基づくことをご了承ください。

グラフ1 フラット35 総返済負担率の推移
グラフ2 フラット35 返済額の推移
グラフ3 フラット35 ボーナス併用償還率の推移
グラフ4 返済期間の推移
グラフ5 ペアローン、収入合算
グラフ6 ミックスローンの利用状況
  1. 127家づくりのために
  2. 126フラット35利用世帯の資金
  3. 125フラット35利用者調査から
  4. 1242024年の家づくりのコスト
  5. 123取得世帯のプロフィール
  6. 122家づくりの転換点
  7. 121新築か、価格か、質か
  8. 120家は3000万円で建つか
  9. 119家づくりの資金計画
  10. 118家づくりのコスト
  11. 117地震保険と耐震化
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