京都の建築家が教える注文住宅のツボPoint in the order housing @Kyoto
column114 木造住宅の全館空調 2023.12.01
プロがお勧めする理由
住宅の高気密高断熱化とともに急速に認知が広がる、全館空調。エアコンの全館空調効果も人気ですが、ダクト方式が全館空調です、
ハイエンドユーザー向けの高機能設備として、大手ハウスメーカーも独自商品を開発・導入を始めています。
全館空調の良さは、一年を通して家を初夏や初秋の心地よさに保つところ。
暑さ・寒さのピーク時だけでなく、肌寒さや足元の冷たさ、気温の急上昇によるのぼせ感など、温熱環境にまつわる不快感が解消されます。
実は省エネ設備で、設置後に建築主が驚くのがランニングコストの安さ。
エアコン+ヒーター等の一般的な空調と比較すると、魅力が際立ちます。
全館空調は高コスト?
一方でダクト方式の全館空調は、一般的な壁掛けエアコンと比較すると設置コストが高いと言われます。ほんとうでしょうか。
全館空調の機能は、換気と住宅一軒、丸ごとの温度調整です。
壁掛けエアコンは設置された室内の温度調整だけなので、コストの比較を試みるなら、壁掛けエアコンにない機能を設備費用に追加して比較する必要があります。
それは壁掛けエアコン+床暖房+サーキュレーター(温度ムラ解消)+熱交換型換気扇のセットを、玄関や廊下を含めた居室空間の数だけ設置する、そんな重装備。
全館空調と同等の効果を壁掛けエアコンプラスαで代替しようとすると、膨大な機器と工事が追加になり、コストメリットは感じられまません。
「全館空調は高い、壁掛けエアコンがローコスト」の背景には、365日の快適を求めない、間欠的・局地的空調を良しとする従来のマインドセットがあるようです。
設計もデザインも難しい
とはいえ、全館空調が普及しなかった歴史にも理由があります。ダクト式の全館空調は住宅事情の違う欧米から流入した技術です。
70年代当時の導入初期には、家庭用に適した機器が見当たりませんでした。
また日本の木造住宅で実現するには、高気密高断熱や木造軸組への造詣と丁寧な設計が必要になりますが、その周知も不足していました。
木造住宅での全館空調の難しさは、木造軸組と設備の共存です。
居住面積を最大化しながら機械室スペースを確保し、直径300mmのダクトを105角の柱と壁や天井内部に同居させつつ無駄な空間を作らないのは、至難のワザ。
面積や部屋数を求める一次取得層向けの住宅市場では、手間のかかる設備への需要もまた薄かったのです。
住宅省エネ化の切り札に
近年、高い住み心地を求める声が高まり、機器も充実。住宅市場では大手ハウスメーカーから地域の工務店まで、多くの事業者が全館空調を謳うようになりました。
設計の困難ゆえ、プランや面積によっては全館空調が向かない場合もあります。
それでも、高付加価値を求める建築主や平均年齢の高い住宅二次取得層を中心に、関心が高まっています。
地球規模の温室効果ガス削減目標に向かって住宅省エネ化のアクセルが踏み込まれたいま、全館空調はますます広がりそうです。