京都の建築家が教える注文住宅のツボPoint in the order housing @Kyoto
column50 照明設計のいろは 愛される理由 2020.06.29
名品にはデザイン以外の理由がある
住宅に命を吹き込照明器具。建築家の住宅作品でよく見かけるのが、ヤコブセンランプやルイス・ポールセンなど、北欧のデザイナーによる名品です。
アイコニックなフォルムで、1台で室内のデザイン感度がぐっと上がります。
実は配光データでも、その良さが証明されています。
照明器具の配置を検討する時に考えるのが、どこにどのくらいの明るさが必要か。
寝室では光が目に直接届かないように、おやすみ気分を誘うほんのりした明るさを間接照明で。
作業スペースのキッチンには、細部まで見える直射照明のくっきりした明るさを。
ではダイニングの明るさは?
料理が美味しそうに見えて、新聞が読めて、でも目が疲れるほど明るくない。
そんな食卓の理想の明るさは、卓上の照度で200~300lx程度と考えています。
器具の付属資料にある配光曲線を見ると、ヤコブセンランプの323F-217の直下照度は、1.2m付近で200lx。
ペンダントの取り付け高さの机上60~80cm付近は、300lxに近い照度のようです。
では周囲の明るさはどうでしょうか。
快適に感じる室内の照明は、作業をする卓上面である照明器具の真下の明るさと、周囲の適度な明るさで構成されます。
配光データが緩やかに左右に広がり、天井面にも広がっている通り、ヤコブセンランプは器具周囲と天井面に適度な明るさをもたらすようです。
食卓でも人の目線あたりでは50lx前後のやわらかな照度が求められます。
配光データではヤコブセンランプのその高さは、光源から水平に1.5m離れた場所で約50lxとちょうどいい明るさ。
卓上の平均照度も140lx前後で、目に負担をかけない明るさ(食卓のサイズや天井高など条件により変動します)。
天井面は器具の直上で20lx程度で直下照度の10%程度と、間接照明のようにほんのり天井を照らします。
直下照度、目線の照度、天井面の照度。
いずれも理想に近いスコアで、名品には理由があると実感します。
ヤコブセンランプにならぶ人気のルイス・ポールセンPh5やトルボーも、その美しい器具デザインだけでなく、照明器具としての配光性能も優れていると感じます。
もう一つ重要なポイントとして、セードを透過したり反射したりする光の効果があげられます。
ヤコブセンランプのセードはパイ皮のような、薄い薄い木のスライスです。
ミルフィーユのような素材の重なりを光が通過するとき、室内に香を感じるような、やわらかな光が沁み出ます。
PH5にもセードの内側や反射板の彩色があり、器具写真からは想像しにくい、独特の温かく柔らかい光の効果を生み出します。
名品には美しいデザインだけでなく、サーカディアンリズムやクルーゾフ効果に合致した照明器具としての質の高さが備わっているようです。
歴史的であるゆえに配光データが付属していることが少ないのですが、探して検証して、名品には理由があることが納得できました。