京都の建築家が教える注文住宅のツボPoint in the order housing @Kyoto
column27 上海家具最前線 2019.10.08
■デザインのベクトルは外から内へ
情報に国境のない時代、先端デザインはまさにボーダーレス、ネットで見かけるクールなデザインは、時にウクライナから、時にメキシコから、世界各地から発信されています。出張先の上海で見つけた、素敵な家具をご紹介します。
中国の国産デザインのレベルは、経済とともにここ数年で飛躍的に発展を続けている印象があります。
例えばファッション、以前は都市部でも人民服を見かけるほどファッションの概念が乏しかったのですが、現在では人々の着るものは確実に良くなり、若い人たちのおしゃれへの情熱は先進国以上かも知れません。
改革開放以降の豊かな中国で成長した若い人には、独自のファッション感覚やライフスタイルが定着しています。
建築物のデザインも、以前は思わず絶句する奇抜な装飾で飾り立てたビルが珍しくなかったのですが、新しいビルや建築中の建物の中には、非常に洗練されたものもあります。
最近ではインテリアデザインにも、その傾向が現れているようです。
上の写真、日本ではグッドデザイン賞、中国でもインテリアデザインアウォードを受賞した「kamome stool」は、上海の家具ブランドikasasの製品。
柳宗理の名品「バタフライスツール」を思わせるしなやかなフォルムに、スタッキングの機能を併せ持ちます。
透明感のある色遣い、シンプルで無駄のない線、部屋の空気を変える存在になりそうな、素敵なスツールです。
デザイナーは上海を拠点に、アクタスへの商品提供など日本でも活躍する、佐々木章行氏です。
上海でikasasの家具を初めて見たとき、驚いたのはそのデザインの方向性でした。
デザインは、モノと人の関係を良好にする美的な知恵ですが、その方向は様々。
大きく分けると、外に向かうデザインと、内に向かうデザインがあります。
外に向かうデザインとは、存在を顕示するためのデザイン。
社会階層や経済力、影響力の大きさを内外に知らしめるための動的で華やかなデザインで、インテリアならゲストを招くために発達したイタリアの家具を思い起こせば、だいたいイメージできるのではないでしょうか。
内に向かうデザインとは個人の心を満たすためのデザインで、インテリアなら長い冬を快適に過ごすために発達した北欧家具など、静的なフォルムに内省的な色遣い、植物由来の素材遣いが見られます。
わたしは人を中心とした内と外の世界が、デザイン上にも存在すると感じています。
社会や経済の発展段階では外に向かうデザインが、成熟期を迎えると内側に向かうデザインが、好まれるようになると考えているのです。
その考え方で見ると、上海で見たikasasのデザインは、人の心に寄り添う優しさ、内側に向かうデザインを感じました。
急速な発展を遂げる中国、外に向かって対面を重視する国において、ikasasのデザインの価値が認められていることが、とても新鮮に感じられました。
世界第二の経済大国になった中国ですが、早くも成熟期に差し掛かりつつあることの現れでしょうか。
またその進化は、中国の人だけでなく、日本をはじめ世界から優れた人材が中国に集まって、それぞれの立場で推進しているようです。
日本でも実証されたように、急速な経済発展は膨張期を過ぎると破壊的なバブルを起こしますが、成長期には文化の発達にも拍車をかけます。
今その現象が隣国で現在進行形で起こっていることに、過去の体験が別の場所で起こっている現象を間近で見られることに、日本人デザイナーの活躍に、隣国の未来に、興味を禁じえません。