京都の建築家が教える家づくりのツボPoint in the order housing @Kyoto
column61 熱の逃げやすさの計算 2020.11.19
住まいと健康の深くて長い関係
住み心地がよくて、ランニングコストが少なめで、環境にも貢献できる高気密高断熱の住宅。国立研究開発法人建築研究所が提供している専用ソフトを使って、作品事例の省エネ性能を自社評価してみました。子育て世代のエコハウスwings の省エネ指標BEIは0.65、設計一次エネルギー消費量は35%削減できました。
熟年世代のスイートルーム「はなあふ家」は省エネ指標BEIが0.6、設計一次エネルギー消費量は40%削減できました。
どちらも「BELS」建築物省エネルギー性能表示制度で5つ星(満点)の評価、胸をはれる結果となりとなりました。
これらの指標の算出に重要な役割を果たすのが「外皮平均熱貫流率」です。
外皮の熱損失量の合計を、外皮面積の合計で割算して得られる数値「Ua値」です。
「外皮」「熱貫流率」「熱損失量」など伝わりにくい言葉ばかりですが、熱の逃げやすさを極力減らす高気密高断熱の家作りには大事なポイントなので、がんばって説明してみます。
「冬に薄い服を着ると寒い。」こんな経験は誰にもあると思います。
熱は高いところから低いところに移動する性質があります。
人が感じる寒さも、体温の熱が外気に移動する(逃げる)ことで感じる現象です。
寒い季節に薄手の麻のシャツまたはウールのコートを着ると、想像してください。
言うまでもなく、麻のシャツを着ると、ウールのコートを着た時より寒く感じます。
麻のシャツはウールのコートより熱損失量が大きい(熱が逃げやすい)ためです。
熱損失量は、熱還流率(1÷材料の厚み÷その材料の熱伝導率)×面積で求められる、熱の逃げやすさを表す数値です。
計算式を言い出すと難しく感じますが、「素材の熱伝導率と厚みが、熱の逃げやすさに関係する」ということです。
まず熱伝導率で、麻はウールに比べて熱伝導率が高く、熱が逃げやすい。
素材の厚みはといえば、シャツはコートより生地が薄い場合がほとんどでしょう。
熱伝導率と生地の厚みの違いで、冬に着る場合の麻のシャツとウールのコートでは、体感温度に大きな差が出るのです。
建物外皮の熱損失量も同じように、外壁を構成する素材の断熱性能と厚み、そして面積を掛け合わせて算出します。
ほぼ単一素材から成り立つ衣服と違い、建物の外皮は、外壁や窓、扉などの異なる部材が混在します。
その上、窓ひとつをとっても、窓ガラスやアルミや樹脂の枠材、断熱層を作る緩衝材、ペアガラスの間のガスに至るまで、様々な素材が混在します。
外壁は仕上げや工法によって大きく違い、その上、左官の仕上げ材、モルタル、下地の合板、合板を止める木材、室内側の木材、石膏ボード、珪藻土などの室内側の仕上げ材etc・・・素材も厚みも面積もバラバラ。
衣服の例で言えば、麻やウールがパッチワークされた服を、何重にも重ね着しているような状態です。
それら素材の一つひとつについて、熱伝導率を調べ、厚みと面積を割り出し、掛け算し、それらを統合し・・・と、地道な作業を繰り返して、外壁の熱損失量が求められます。
サッシや扉のメーカー商品はカタログに記載がありますが、外壁や屋根は手計算で、いやもう、ほんとに大変でした。
でもその甲斐あって、作品事例の省エネ性能が優れていることが確認できました。
建物の外皮も衣服(人体の外皮)同様に、密閉(気密)性が高い方が熱損失量が少なく、熱損失量が少ない方が断熱性能も高くなります。
それが、冷暖房時のエネルギー消費量が少なくて済む家です。
冷暖房以外でエネルギー消費が大きい住宅設備は給湯と照明です。
これらをエコキュートやLED照明など高効率機器にすると、住宅の省エネ性能は飛躍的に高まります。