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column102 耐震性能2000年基準の倒壊 2023.06.14
2000年(現行)基準の木造住宅の倒壊はなぜ起こったか?
2016年の熊本地震報告書(国土交通省)から、住宅倒壊の防止を考えます。建築基準法に定める耐震性能は、旧耐震基準→新耐震基準→2000年(現行)基準と、段階的に強化されて来ました。
20万棟が被災した熊本地震でも、新耐震基準と2000年(現行)基準の建物は大半が無被害か軽微な被害に止まりましたが、ごくわずかどちらの耐震基準にも木造住宅の倒壊はありました。
前々章で旧耐震基準を、前章で新耐震基準を取り上げ、続いて本稿では2000年(現行)基準の倒壊について、報告書を読み解きます。
地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が作用・・・(?)
築浅物件とも言える耐震基準が2000年(現行)基準の木造住宅の倒壊は、国土交通省熊本地震調査報告書抜粋ではこのように記述されます。「接合部の仕様を明確化した平成12年6月以降に建築されたもの(脚注 2000年(現行)基準)で倒壊したもの7棟のみで見ると、被害要因は、現行規定の仕様となっていない接合部(脚注:施工不良の疑い)3棟、著しい地盤変状の影響1棟、震源や地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が建築物に作用した可能性があるもの3棟であった。」
「著しい地盤の変状」は陥没や隆起など、敷地の激変を指します(写真1)。
敷地内に陥没や隆起が起きたようなケースです。
もう一点の「震源や地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が建築物に作用した可能性」については、図面を取り寄せて詳細な検討がなされました。
構造計算の結果、倒壊した3棟は建築基準法で求められる壁量は十分、接合部の補強も満たされ、典型的な構造不良は見られません。
そこで計算用の数値ではなく現実に近い地震波の数値でシミュレーションした結果、局所的に検討値より大きな地震力が作用して「層間変形角」に大きな不足が生じた可能性があった、と指摘されました。
層間変形角の著しい不足
層間変形角は横方向の揺れ=水平荷重を受けた時に建物の上下階の間に生じるズレを指し、母数が大きい方が変位幅は小さく、居住性にも優れます。建築基準法では構造ごとに値を規定し、木造は1/200(緩和措置で1/120まで可)以内とされます。
報告書によると、倒壊した2000年基準の建物は、建築基準法の想定する「稀(まれ)なレベルの地震力」に対する層間変形角は満たされていました。
しかしより強い「極稀(ごくまれ)な地震力」を受けた時は、層間変形角1/30前後(倒壊危険レベル)になった可能性があった、との記述がありました。
軟弱地盤は地震力を増幅する
同じ震度でも、地震力が激しく作用する建物があるのはなぜか。国土交通省の熊本地震報告書抜粋には「引き続き、特定の地盤が地震動に与える影響を詳細に調査・分析」とあります。
一方で、構造勉強会などでは、地盤の性質、建築物の高さ、工法、材質、配置等の違いで、地震力の伝わり方や増幅の仕方が大きく変わることが知られています。
2000年(現行)基準物件の例外的な倒壊は、軟弱地盤だった、もしくは揺れやすさなど建物固有の原因があったか、と検討が続いています。
軟弱地盤は文字通り、軟らかい地盤を指します。
軟らかい地盤と固い地盤では、軟らかい地盤の方が大きく揺れます。
例えて言えば、お皿に載せた羊羹とプリンに同時に横方向の振動を加えると、プリンの方が強く揺れる現象です。
軟弱地盤をプリンに例えるなら、地震力を受けた時、軟弱地盤は強固な地盤より激しく揺れ、同様に上に建つ建物もより激しく揺れる。
2000年(現行)基準でも倒壊した数棟は、揺れが揺れを誘発して破壊的な地震力が作用した結果、とも推測できます。
耐震性能の2000年(現行)基準は住宅性能表示制度では耐震等級1で、ほとんどの住宅には有効でしたが、倒壊した建物もまれに発生しました。
実は、より強力な耐震等級2以上の住宅は、大半が文字通りの無傷でした。
次回に続きます。