京都の建築家が教える家づくりのツボPoint in the order housing @Kyoto
column73 ウッドショック後の世界 2021.08.12
輸入品も国産も
アメリカで発生し、日本にも飛び火して住宅業界を震撼させたウッドショック。現実の出来事として品不足や木材費の高騰を招いています。
木材生産国でもある日本ですが、商品化まで数十年かかる商品特性ゆえに急な増産が難しいこと、ショック沈静化以降の価格下落を恐れて増産体制が整わないことや輸入材の高騰に影響され、価格高騰は国産材にも及びます。
永らく住宅に関わってきた者として、世界のあり方が変わったように感じます。
この感覚、何かに似ている・・・そう、70年代のオイルショックです。
ショックで時代の扉が開く
オイルショックは70年台に起こった石油価格の高騰で、エネルギー資源を輸入に頼る日本のインフラや産業の脆弱性を痛打した出来事として、記憶されています。ある日突然、湾岸諸国からの石油価格がそれまでの1.5倍ほどに上昇、それからうなぎ登りが始まり、最も高い時期で4倍ほどにもなったと言います。
背景には当時、ペルシャ湾岸の産油国とイスラエルの間で続いていた中東戦争があり、敵対するイスラエルと緊密なアメリカ・ヨーロッパをターゲットにしたと言われています。
日本はむろん紛争当事者ではなかったのですが、アメリカとの同盟を理由にとばっちりを受けたかたちになりました。
GDP伸び率は戦後初めてマイナスを記録、60年代の高度成長時代が終わり80年台半ばのバブル期を迎えるまで、その後日本経済は長い低成長時代に入りました。
省エネが国是となる中、国内では造船や製鉄など重厚長大産業から、自動車・電機等ものづくり製造・輸出産業へと、経済産業界の主役が交代。
国際社会間の協調の必要性が認識され、サミットなど今に至る国際的な枠組みが整えられていきます。
石油以外のエネルギー資源として原子力発電や太陽光発電、省エネ技術の研究開発も本格化しました。
紛争に始まったオイルショックは、時代の歯車を押す大きな力となりました。
ウッドショック以前からコストは継続上昇中
新型コロナウィルス感染症の爆発的な拡大から始まったウッドショック。価格高騰を受けて住宅需要が収束し、バブルマネーも分散して、アメリカの材木市場は落ち着きを取り戻したと言います。
とはいえ木材価格は高騰前の1.5〜2倍で高止まりのようです。
市場の落ち着きは期待するしかありませんが、木材だけでなく金属や住宅設備機器も価格上昇は継続中。
マクロデータで見ると、実は住宅建築のコストはウッドショック以前から上昇が続いていました。
ウッドショック前の昨年(2020年)の調査で、三大都市圏の土地付き新築注文住宅の平均購入価格は5,359万円。
5年前(2016年)の4,513万円から、20%近く上昇していました。
消費税増税以外のコストアップ要因として考えられるのは、国際的な原料高、住宅建築や設備機器の省エネ化や高機能化、環境配慮によるコスト上昇などで、この傾向は今後も続きそうです。
ウッドショックはコスト高基調の上に積み上がる、新現象。
カーボンニュートラル2050への対応など、家づくりはいま、大きな変化の時を迎えています。