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column75 令和の時代の家づくり 注文住宅 2021.09.03

マクロデータで見る、注文住宅の現在

国土交通省のデータから、令和の家づくりを俯瞰します。
1960年代の高度成長期以降、大規模団地や分譲住宅・マンションの供給が急増。
2000年代前後からは都市部の高層マンション(タワマン)ブームも到来、2010年代の中頃からは国策として中古市場の活性化が進み、家は「建てる」より「買う」時代になってきました。
とは言え現在も新築に限れば、着工件数に占める「持ち家(注文住宅)」の割合は、常に50%を超えます(国土交通省「住宅着工件数」。
グラフ1のように、住宅の着工件数は社会・経済の動きに大きく影響されますが、新築の場合は家を「建てる」ことを選択する人が今も多数派です。
注文住宅が多数派というのは意外かもしませんが、現在では建築済みの物件を売る「建て売り」より、建築条件付きの土地と建築をセットにした「売り建て」が多いことが理由と考えます。

新築住宅に占める持ち家(注文住宅)の比率を見ると、三大都市圏は全国平均より10-15ポイント低く、特に首都圏の低さは顕著です(グラフ2)。
適合地の少なさ、地代の高さなど思い当たる原因はあります。
過去には「関西なら注文住宅を建てられる」とおっしゃって、東京から引っ越して来られたお施主様がおられました。
細部に至るまで夢が詰まった家を京都で実現されましたが、リモートワークが可能になった今こそ、そんな動きが広がると素敵ですね。

都市部の平均は37坪/5,594万円、坪単価は97万円

国土交通省の「R02 住宅市場動向調査(2019年4月~2020年3月)」から、注文住宅の平均像を見ていきます。
土地を含む住宅費用の総額は「住宅建築資金、土地購入資金」と報告されます。
全国平均は4,713万円、内訳は土地が1,545万円、住宅3,168万円で、この10年で最も高い金額となりました。
一方で自己資金は1,591万円で、この10年で2番目に低い水準となり、自己資金比率も最低水準となりました(グラフ3)。

住宅の面積をみると、増減しながらの縮小傾向が続いています(グラフ4)。
10年前の報告書では注文住宅の平均は39.8坪でしたが、最新では35.3坪と10%以上の縮小となりました。
建築にかかる費用が増えて面積が下がると、坪単価は上昇します。
この10年で71万8千円から89万8千円に、125%アップしたことになります。

住宅は地域の事情を色濃く反映するので、都市部も見ていきましょう。
報告書によると、三大都市圏の住宅資金の平均は5,594万円、内訳は土地が2,211万円で住宅が3,383万円と、こちらも最高値で、自己資金の平均は1,933万円でした(グラフ5)。
自己資金の比率は全国と同様に下落が続き、10年で8ポイントあまり減少しました。
面積は10年前の37.5坪から34.8坪とこちらも縮小、坪単価は79万2千円から97万1千円に123%のアップとなりました(グラフ6)。

都市部でも全国でも、建築にかかる費用は年を追って上昇し続けています。
気になるのは自己資金額の減少で、マクロ経済の影響を感じます。

コスト増の背景

日銀の物価上昇率2%目標が打ち出されたのが、2013(平成25)年1月。
8年が過ぎても、いや9年目もほぼ確実に、実現の可能性が見えない経済状況にもかかわらず、住宅建築にかかるコストだけは力強く上昇を続けています。
背景には、コスト競争力が弱い中小工務店と、販売管理費が高い大手メーカーと言う、以前から続く構造問題があると言われます。
そこに、住宅や住宅設備・機器の高級化・高機能化、輸入品の高騰、環境問題化によるコストアップなどが重なっていると推察します。

取得費が上昇を続けると負担感ばかりが増して、一般世帯が住宅を取得する可能性や意欲が低減します。
望めば誰でも良質の住宅を取得できるよう、知恵を絞る必要がありそうです。

→column76 令和の時代の家づくり 注文住宅という選択 2021.09.17

このコラムは、注文住宅を計画する方の参考になることを目的に、アーキシップス京都の経験に基づいて書き下ろします。
トピックス、技術、経験の内容は、主観に基づくことをご了承ください。

グラフ1 新築住宅の内訳
グラフ2 都市圏別持ち家比率の比較
グラフ3 全国 住宅資金総額と自己資金の推移
グラフ4 全国 住宅坪数と坪単価の推移
グラフ5 三大都市圏 住宅資金総額と自己資金の推移
グラフ6 三大都市圏 住宅坪数と坪単価の推移
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